2022年2月24日早朝、ロシア軍はウクライナに攻め込み、ヨーロッパはユーゴスラビア紛争以来20年以上ぶり戦火に見舞われることになりました。戦闘は今も止んでいません。侵攻直後、国連やほとんどの先進国がロシアの戦争行為を厳しく非難し、ロシアへの対抗手段を取り出しました。EUは特にウクライナを支持するスタンスを取りました。にもかかわらずEUの一員であるハンガリーは他加盟国と違い、ウクライナに対する支持にはあまり積極的ではありませんでした。逆に、ウクライナへの軍事支援を拒否したり、制裁の邪魔をしたりすることで注目され、西側メディアにより早々に「親ロシア派」に分類されてしまいました。それは本当に正しい評価でしょうか。ハンガリーは本当に「親ロシア派」なのかみていきましょう。
歴史的を振り返ると、ハンガリーが親ロシア派になる理由は何一つ見つかりません。ハンガリーは1848年、オーストリアに対して独立戦争をおこしました。勝利寸前でオーストリア皇帝がロシア皇帝に援助を求め、ハンガリー独立政権はロシアの圧倒的な軍事力によって潰されました。
第二次世界大戦で、ハンガリーは枢軸国のドイツと共にソ連と戦いました。ソ連には多くのハンガリー人兵士が送り込まれ、戦死しました。後にハンガリー本土もドイツ対ソ連の戦場となり、ブダペスト包囲戦は第二次世界大戦で2番目に長い市街戦でした。戦争中はソ連軍による強奪で民間人の被害も大きかったと言われています。
そして第二次世界大戦後、ハンガリーはソ連軍に占領されたが故に社会主義ブロックに強制的に組み入れられたのです。ソ連の全面支援を受けていた共産党が他の政党を潰し、1947年の総選挙で政権を取り、ハンガリーにおける社会主義の時代が始まりました。
社会主義がもたらしたのは、貧困と自由の剝奪です。1956年のハンガリー動乱では、国民は共産党による支配に対し武装蜂起し部分的には成功しました。しかし、最終的にはソ連軍が押し寄せ、ブダペストは再度戦場と化し、自由を求める運動は容赦なく潰されました。
その後、ソ連はハンガリーに常時駐屯し続けました。1989年の体制転換時には、「ロシア人は出ていけ」がスローガンになったくらいロシアに対するイメージは悪かったのです。多党制装導入による体制転換後は、西側との関係構築を積極的に進め、ロシアとの政治・経済的関係は大きく後退しました。
前述の通り、歴史的に見るとハンガリーは少なくとも3回はロシアによってひどい目に合わされています。にもかかわらず、現在のハンガリー政府はなぜ親ロシア的な言動を示しているのか疑問に思えるでしょう。これには政治・経済的な背景があります。
先ず、この10年のオルバン政権の外交戦略を考える必要があります。「東方政策」です。
「東方政策」とは、中国・ロシア・中近東・韓国・日本、その他のアジア諸国との政治・経済関係をより緊密にする戦略です。ブダペストの主要広場である「モスクワ広場」を「セール・カルマン広場」に改名し、ソ連(捕虜問題など)や共産主義を積極的に非難していたオルバン政権からは意外な政策もみえるかもしれませんが、東方政策はロシアだけが眼中にあった訳ではありません。
「東方政策」の基本的な考えは、今後、成長する地域は西ではなく東だということです。ハンガリーは元々中央アジアから移動してきた騎馬民族が作った国なので、東の国とうまくやっていけるという昔のツラン主義(中央アジアを起源とするとされる様々な民族の民族的・文化的統一性を主張する思想で20世紀前半のハンガリーで人気が高かった)の名残のような思想性もあります。中でもロシアと中国という強大な2ヶ国との関係構築は避けられません。東側諸国ブロックの崩壊後、ハンガリーはこれらの国とほぼゼロから関係を再構築する必要があったことは留意すべきです。オルバン政権は10年程度の時間をかけてこの関係構築に力を入れて、ようやく2019年~22年あたりで結果が見え出していたのです。
そこに勃発したのがロシア・ウクライナ戦争です。10年かけてやっと結果が見え出した東方政策を全部帳消しにできるか、という悩みに直面することになりました。当初、ロシア・ウクライナ戦争は早期決着することも予想されていましたので、ハンガリー政府はなるべくロシアを刺激しない方向で様子を見ることにしたのです。
ハンガリーは、ウクライナともロシアとも特に貿易は盛んとは言えず、ハンガリー企業にとってロシア市場は存在しなくてもあまり困ることはありません。ロシア製ウォッカ以外はロシア製の商品はハンガリーの店頭には並んでいません。ただ、ある分野でのみロシアの存在は大きい。それはエネルギー分野です。
ハンガリーは国内で消費する原油と天然ガスのほとんどを、パイプラインを通してロシアから輸入しています。ロシアからのエネルギー供給が止まれば、ハンガリーはかなり困難な状況に陥ります。ロシアがエネルギーを「武器」として使った事例は過去にもいくつもありましたし、ハンガリーもその被害を被ったことがあります。常にエネルギー供給が止められるリスクがあるため、ハンガリーはロシアを意識せざるを得ない状況にあることは重要な点です。
また、ハンガリーの経済は、外国企業による製造関連の投資で成り立っている部分が大きいため、エネルギー供給が途絶えてしまうようなリスクは、ハンガリーの経済的強みを大幅に減らします。例えば、BMWの工場をハンガリーに誘致できたことを誇りに思っているオルバン政権は、ロシアからのエネルギー供給が途絶えればBMWに対して面子が潰れてしまうでしょう。従って、ハンガリー政府はエネルギー供給で問題が生じるようなリスクを取ることはできないのです。実際、戦争勃発後、ドイツ向けのパイプライン、ノード・ストリームはロシアによって止められ、そのリスクは顕在化しました。
他方ハンガリーは元々ウクライナとは難しい関係にありました。ロシア・ウクライナ戦争が始まった当時、ハンガリーとウクライナ関係はどん底でした。原因はウクライナによる言語法の施行です。ウクライナは、2014年のロシアによるクリミア併合後、同化政策の一貫として学校や役所などでウクライナ語以外の言語の使用を制限する法律を採決しました。主たる目的はロシア語を排除することでしたが、その他の少数民族の言葉であるポーランド語とハンガリー語の使用も制限されました。ウクライナ西部には数十万人のハンガリー人が住んでいます。結果的にこの人たちは母国語であるハンガリー語の使用を制限されてしまったのです。ハンガリー政府は法律採決直後から強く反発しましたが、ウクライナ政府は聞く耳を持ちませんでした。これだけでも両国間にはかなりの政治的緊張が生じたので、過去の経緯を忘れて、ロシアに侵攻されたウクライナアを「全面的支援せよ」というのはなかなか受け入れがたいところがありました。
それでもハンガリーはEU加盟国であり、EU内の空気を読んで最初の段階からウクライナを支持しました。戦争勃発直後、国境を開放し、ウクライナ人が自由に入れるようにし、ハンガリーに滞在したい人たちには一時滞在許可証を発行しました。他の国に行きたい人には無料で鉄道などの公共交通機関を使え、ハンガリーを通過することができるようにしました。
またハンガリーは、EUの石油・天然ガスの禁輸措置は免除されているとはいえ、EUのロシアに対する制裁に関する条約をすべて批准しています。軍事的な支援はしていませんが、人道的な支援は戦争勃発時から行っています。政府主導の支援のみならず自治体や民間企業も支援物資を提供してきました。ハンガリーの工場では多くのウクライナ人が働いており、その家族を呼び寄せるため企業は協力しました。
2022年末から2023年にかけて戦況はロシアにとってあまり望ましくないことがみえてきました。エネルギー価格も下がってきており、ハンガリー政府はロシアと多少距離を置くようになってきています。2022年11月には、ハンガリーの大統領がキーウを正式訪問しました。2023年8月に再び訪問する予定です。ハンガリー政府が積極的に参加していたロシア主導の「国際投資銀行」(IBB)からも2023年4月、脱退しました。エネルギーに関しては、政府は他の輸入先を開拓しようとしています。ハンガリーが、今後もロシアを信頼に値するパートナーとみなしていたら、このような行動はしないでしょう。
一般国民の意見はどうでしょう。EUは定期的に加盟各国でEurobarometerという世論調査を行っています。2023年6月の調査で、ウクライナに関する質問についてハンガリー人は次のように回答しています。
ウクライナ難民に対する人道的支援に賛成86%▽ウクライナに対する経済的な支援に賛成60%▽ロシアに対する制裁に賛成59%▽ウクライナの軍事的な支援に賛成44%でした。この結果をみれば、ハンガリー人の過半数はロシアよりもウクライナに親近感を抱いていることが分かります。
2023年3月、ハンガリーはロシアによる「非友好的な国リスト」に追加されました。ハンガリーは「親ロシア」と言われますが、ロシアは「親ハンガリー」ではないようです。
今後はどうなるのでしょうか。ハンガリー政府はこれからも難しい外交のかじ取りを迫られますが、それでもロシアとの外交をストップすることはしないでしょう。しかし、これまで述べてきたように、ハンガリーにとってロシアは、エネルギー関連を除くと特に重要なビジネスパートナーという訳ではなく、一般のハンガリー人の親ロシア的な感情は非常に薄いです。エネルギー分野でも輸入元の多様化は進んでいるので、ロシアとの関係を更に改善する必要も徐々になくなってしまいます。オルバン政権の言動は誤解を招くこともありますが、ハンガリーは「親ロシア」ではなく、実は「親EU」そして「親ウクライナ」なのです。
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「ハンガリーへの移住」や「ハンガリーでの就労」をキーワードで調べると、ハンガリーは外国人や移民に対して厳しいというニュースが目に入ってきます。ハンガリーで就労するための許可証を取得するのは本当に難しいのでしょうか。滞在許可証申請について知っておきたいことを簡単に説明いたします。
まず、日本とハンガリーはビザ免除の協定を結んでいます。日本のパスポート保持者はハンガリーに行く前に事前にビザの申請をする必要はありません。ハンガリーに入国した時点から3か月間はビザなしで旅行者としてハンガリーに滞在できます。シェンゲン域内の初めての空港でパスポートにスタンプが捺されるだけです。スタンプの日付から3か月はビザや許可証の免除期間です。
3か月間は観光やビジネスでの出張には十分ですが、3か月を超えてハンガリーに滞在する予定の方は学生ビザや就労許可証などを申請しないといけません。
ハンガリーの滞在許可証に様々な種類がありますので、ご自分の目的に合ったものを確認しましょう。
※この記事には学生ビザ、ワーキングホリデービザ、求職ビザなどは取り上げていません。
90日以内の仕事やビジネスでハンガリーに滞在される方の場合は、「就労許可証」が必要になります。就労許可証にも2種類があり、どこから給与が払われるのか、雇用形態や業務内容によって許可証の種類が変わります。
就労許可証の1つは「ICT就労許可証」と呼ばれます。ICT許可は「企業内での異動」を意味しています。つまり、日本の本社が赴任する社員を本社から外さず、ハンガリーの子会社か支店で働くよう異動させた場合に当たります。申請者は日本の親会社と雇用関係にあり、転勤命令を受けているのが申請条件になっています。給与は日本の親会社から受け取ります。
ICT許可の期限は最長で3年間で、延長はできないので、滞在期間は3年間を上回らないよう注意しましょう。
但し、ICT許可が切れる前にもう1つの就労許可証、ハンガリーにある子会社と雇用契約を結ぶ「就労許可証」の申請は可能です。一方、ハンガリーにある子会社(ハンガリーで設立された法人)とも雇用関係を結ぶ場合はまた別の種類の「就労許可証」が必要です。この就労許可証の期限は最長2年間ですが、こちらはICT許可と違い、期限が切れる前に延長がOKです。
駐在員の方にご家族が同伴される場合は、ご家族には「配偶者ビザ」を取得します。
ハンガリーで滞在許可を申請するには提出しないといけない書類が多くあります。弊社の専用シートにお客様の個人情報や職務などをご記入いただくだけで、申請に必要な書類を全て用意いたします。
申請時にハンガリーでの滞在先住所が決まっていなければなりません。つまり、申請の前にハンガリーで家探しをし、アパートの賃貸契約を結ぶ必要があります。弊社は家探しもサポートしています。
申請書類には赴任者がどのような職務を担当するのかを記載します。日本とは少し異なり、職務に対応する学部を出ていると言うことを証明しなければなりません。このために最終学歴証明書を提出いただき、ハンガリーの国立翻訳事務所で翻訳をしてもらいます。例えば、大学の専攻は法学だったのに申請書類には工場長と記載されていると、つじつまが合わないことになります。日本では大学の専攻と異なる業務を担当するのはよくありますが、ハンガリーではかなり珍しいです。弊社ではお客様と相談して、労働局が納得してくれるような申請書を作成しています。
ハンガリーの法人と雇用契約を結ぶ駐在員は自動的にハンガリーの社会保険制度に加入可能です。日・ハンガリー社会保障協定で加入の免除を申請することもできます。ICT就労許可証の場合は、まず社会保険制度に入れないことから、前もってシェンゲン地域で全ての項目を保証する民間の保険に加入していただく必要があります。申請時に保険証券を提示します。
しかし、ハンガリーの労働局や移民局は決して親切でフレンドリーな機関ではありません。ホームページは分かりにくく、予約はできず、コールセンターの電話が繋がらず、実際に移民局に行けば何時間も待たされる、挙句の果てに書類の不備を指摘された...
また一からやり直し...
こうなると何度も移民局に足を運ぶこととなり、相当な時間と労力が無駄になってしまいます。未提出の書類や不備があれば、追加で書類を用意しなければならず、許可証発行までの時間がさらに伸びてしまいます。一方、必要な書類や手続きを知っていれば、移民局に行くのは1回だけで済みます。
弊社は駐在員の方やご家族の就労許可証・滞在許可の取得、アパート探しなどを全面サポートするだけではなく移民局に同行や移民局とのやり取りにも対応しています。手続きは我々にお任せください!
弊社では滞在許可関係以外にも運転免許証の切り替えや赴任された方のあらゆるサポートをしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ハンガリーの通貨は「フォリント」(forint)と呼ばれます。「フォリント」という名前の通貨は中世のハンガリーでも、また他のヨーロッパの国でも使われた歴史があります。ハンガリーでは第二次世界大戦後の1945-1946年にハイパーインフレーション(世界で最大のインフレ、月間1016%)が発生し、1927年に通貨として採用された「ペンゴー」(pengő)はその価値を完全に失いました。「ペンゴー」に代わる通貨として1946年8月に導入されたのが「フォリント」です。フォリントの補助単位は「フィレール」(fillér)と言い、1フォリントは100フィレールに分割されます。ただ、インフレ等の影響でフィレールは1999年以降は実際には使われていません。
ハンガリーは2004年にEUに加盟しました。EU加盟の条件として共通通貨ユーロの導入が想定されていますが、導入の期限は定められていません。ハンガリーはEUに加盟した後もユーロを導入せず、現在もフォリントという自国通貨を持っています。ユーロ導入の計画は過去には何度もありましたが、ギリシャ債務危機などがあり、導入に関しては賛否両論があります。現政権はユーロ導入に消極的で、2023年現在は導入の目途も立っていないため、フォリントは今後も使われていくと考えられます。
フォリントは通貨の世界では「新興国通貨」(エマージング通貨)とされており、また人口約1000万人という小規模な国であるハンガリーでしか流通していません。よって、外国の出来事の影響を受けやすく、為替レートの変動も激しいです。ユーロの取引が多いため、フォリントの為替レートは対ユーロで示されることが多いです。2023年4月現在のレートは、1ユーロ371フォリントです。
ハンガリー中央銀行は世界的な傾向と同調し2011年から低金利政策を取り始め、2011年に7%あった金利は2016年までに段階的に0.9%まで下がりました。2016年から2020年の間の4年間、金利は一定して0.9%という低水準で保たれました。低金利も原因になり、この間は緩やかなフォリント安(2015年1ユーロ300/310フォリント台、2019年1ユーロ320/330フォリント台)が進んでいました。
財政でも需要喚起の政策(低利子ローン等)が多く、利子は低いままでフォリントの供給は増える一方でした。明言はされなかったものの、フォリント安はまるで国の意図した政策の一部のようでした。
ハンガリー経済の原動力は輸出ですので、フォリント安はプラス効果もあったと推測されます。この時期、ハンガリーの経済成長も高く、多少の物価上昇(2~3%)はありましたが、国民の実質賃金も上昇しました。ただ、2011年1月と2020年1月間でフォリントは対ユーロで23.81%で安くなりました。
2020年3月に新型コロナの危機が始まり、フォリントの為替レートもかなり変動しました。2020年3月のみでフォリントは約8%安くなりました。その後も上下に激しい変動が続き、コロナ後の物価上昇、エネルギー価格上昇、2022年のロシアによるウクライナ侵攻による不安により、2022年10月にフォリントは、1ユーロ430フォリント台まで下落しました。これは2020年1月比でさらに25.45%のフォリント安を意味しています。フォリントの下落は底がないように思われ、2022年フォリントは世界で最もレートが下がった通貨ランキングにも入りました。
2021年6月以降為替レートと反比例して、ハンガリーの金利は上がりはじめました。2020年7月の0.6%から2年後の2022年9月に13%まで基本金利が引き上げられました。ただ、2023年4月現在はオーバーナイト金利は18%で、こちらの方が金利(参考金利)として機能しています。現在は世界的にも珍しい高金利です。長い間、ハンガリー中銀の金利引き上げもフォリントの下落を止められませんでした。基本金利は2022年9月に13%で頂点につき、10月にオーバーナイト金利は18%に上がっても、フォリント安は続きました。
フォリントの為替レートが改善しはじめたのは、2022年12月でエネルギー価格が下がり、ヨーロッパのエネルギー危機の収束の兆しが見えた以降です。特にエネルギーに関してハンガリーは輸入に頼っており、エネルギーは外貨で購入する必要があるため、エネルギー価格が高ければ市場には大量のフォリント売りが発生します。これはフォリント安に繋がると考えます。
2023年にエネルギー供給に関する不安が和らぎ、高金利が功を奏して、2023年1月-4月間はフォリントは対ユーロでは約7%、対ドルでは9%高くなりました。2023年前半は2022年と対照的にフォリント復活の時期だったと言えます。
今後フォリントのレートはどうなるのか。不明点も多いです。中央銀行の金融引き締めでハンガリーで各種ローンの金利が高くなっており、また国にとって国債の負担が重くなっています。高金利は全体的には経済を減速させる効果があります。そのため、政府の方から高金利を引き下げるよう中央銀行へのプレッシャーが強いです。ただ、ハンガリーの中央銀行の立場が難しく、国内のインフレ率が高いまま、世界の主要国が金利引き下げを始めない限り、利下げはフォリントの再び下落するリスクを秘めています。
よって、世界の国々の動向、ハンガリーのインフレ率、2023年にエネルギー価格がどうなるかは重要なポイントになります。結局のところ、ハンガリーは開放経済(国内の市場が狭く、貿易に頼っているという意味で)として他国と上手に共存しなければならないのと同様に、その通貨のフォリントも世界の諸傾向に左右される運命です。
2011~2020年の間のフォリント安は緩やかで、ある意味では為替の動きは予測可能範囲にありました。このような状況では、ユーロまたは円建てで計画している日系企業にとってメリットもありました。例えば、ハンガリーの給料水準が上がっても、それはフォリント建てで、ユーロ建てでは上昇率はそれほど高くはなかったのです。またハンガリー国内のフォリント建てのサービスに対して、インフレはそれほど影響を及ぼしませんでした。一方、2020年以降のフォリントレートの変動が激しく、予測しにくい状況です。レートがどうなるか分からないのは計画を難しくし、経営のリスクともなります。長期的には安定したレートが望ましいのは日系企業のみならず、ハンガリー企業にとっても同じです。エネルギー価格の変動が落ち着いたことを考えると、フォリントレートの急激な変動は少ないと推測されます。長期的な傾向では、フォリント高よりもフォリント安の可能性のほうが高く、それはハンガリーで活動をする企業にとってメリットとなります。
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EVバッテリー産業集積地として注目されるハンガリー。ハンガリーは、スズキ(1991年)とオペル(1992年)の進出で自動車産業が盛んになり、中東欧地域(CEE)で最初にeモビリティの概念を導入したことで知られています。現在、ハンガリー政府は、バッテリー製造の可能性を高めるために直接的および間接的なインセンティブを提供し、ヨーロッパで最大のEVバッテリー生産国になりつつあります。また、ハンガリーは、その専門知識、高い生産性、地理的な利便性、競争力のある生産コストを活用し、ヨーロッパで最も魅力的な自動車関連投資先のひとつに成長しています。
欧州議会は「Fit for 55」パッケージのひとつとして、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止する法案を可決しました。この結果、グローバル展開している自動車メーカー各社は、EVモデルを次々と発表しました。欧州自動車工業会(ACEA)のデータ(2021年)によると、EU26カ国(マルタを除く)の2021年の乗用車の燃料タイプ別新車登録台数のシェアは、ガソリン車(全体の40.0%)とディーゼル車(19.6%)は合わせると全体の約6割(ブルーゾーン)を占めたものの、登録台数はそれぞれ前年比17.8%減、31.5%減。対照的に、ハイブリッド車と電気自動車(EV)の全体に占める割合は37.6%(グリーンゾーン)と、前年から15ポイント以上上昇しました。ハイブリッド式EV(HEV)は19.6%、バッテリー式EV(BEV)は9.1%、プラグインハイブリッド車(PHEV)は8.9%で、さらにEVバッテリーの需要が高まることが予想されます。また、現在、中国は世界のリチウムイオン電池(LIB)の生産は中国がほぼ独占しており、2020年には77%を占めていたものの、近年、特にヨーロッパで多くの国がLIB生産国になりつつあり、地理的な多様化が進むとみられています。LIB生産量に占めるヨーロッパのシェアは、2020年の6%から2025年に25%に増加し、中国のシェアは65%に低下すると予測されています。
いち早く欧州市場に目をつけていた韓国企業、LG化学はポーランドに、サムスン、SDI、SK Innovationはハンガリーに生産拠点を設けています。さらに、正極材や電解液といったリチウムイオン電池の部材を供給する韓国メーカーも進出しており、欧州自動車メーカーへの電池供給体制が築かれています。日系企業も、GSユアサがハンガリーにリチウムイオン電池の工場を、東レがリチウムイオン電池の部材であるセパレータフィルムの工場を設立しています。
ハンガリー経済を産業別に見ると、自動車産業のシェアが高いことが判ります。スズキ自動車、アウディ、メルセデスベンツ、BYD、BMW(建設中)がハンガリーで工場を設立しています。これらの会社は、ハンガリーは賃金など生産コストが低いこと、主要市場のオーストリア、ドイツ、チェコなどが近いこと、政府の補助金が得られることを理由にハンガリーに進出してきました。アウディ、メルセデスベンツは既にハンガリー工場でEVも製造しており、中国のBYDは電気バスの組立を行っています。また、建設中のBMWデブレツェン工場ではEVのみを製造する計画です。これらの工場のニーズに応えるために、EVやバッテリー関連のサプライヤーが多数進出しています。ハンガリー政府には「再工業化計画」があり、ハンガリー経済における工業の割合を増やすことを目指しています。工業の分野でも特にEV関係の投資は政府のサポートや補助金を得やすくなっています。
ハンガリーでは複数の大規模なバッテリー工場の投資が発表されています。どの工場もハンガリー政府のサポートと補助金(Samsung SDIは約130億円)を受けています。
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2022年10月18日、ハンガリーのÚjhártyán市(ブダペストから南へ45キロメートル)に建設された東洋インキハンガリーの工場の開所式にご招待いただきました。東洋インキSCホールディングス代表取締役会長である北川様、トーヨーカラー代表取締役社長である岡市様をはじめ、外務貿易省State Secretaryタマーシュ・メンツェル様やÚjhártyán市長シュルツ・ヨ―ジェフ様、SK On Hungaryの代表者やその他韓国企業サプライヤー、 また、東洋インキハンガリープロジェクトの実現に多大な貢献をされた設備業者や商社の方々が出席され、ドイツから来られた日本舞踊の方が踊りを披露される素晴らしい式典でした。
Sűdy & Co.(シュディアンドカンパニー)はコンサルタント会社として、日系企業様のハンガリー進出やその他の中東欧地域への進出をサポートをさせていただいていますが、東洋インキ社のハンガリー進出に関しては、我々にコンタクトを取ってこられた時にはすでに進出先はÚjhartyán市と決められていて、さらにハンガリー法人の登録も済まされていたので、弊社としてお手伝いできることは限られていました。ただ、東洋インキハンガリーの投資プロジェクトの初期段階において、自社の従業員を採用されるまで、東洋インキハンガリーから委託を受けて色々な業者とコンタクトを取ったり、ハンガリーに関する基本的な情報を提供したり、微力ながらでも投資プロジェクトのお手伝いをできたことを非常に嬉しく思います。
東洋インキハンガリーは、韓国のリチウムイオン電池メーカーであるSK Onのハンガリー工場にリチウムイオン電池正極材用導電カーボンナノチューブ(CNT)分散体LIOACCUM®(リオアキュム)を提供する計画ですが、そのバッテリーはフォルクスワーゲングループの電気自動車に搭載されるとのこと。現在30名の従業員を45名近くまで増やし、2026年までにさらに全世界で100億円を投資される計画とのことでした。
環境問題や資源問題、脱炭素への動きなどの流れで、電気自動車へのシフトがさら進んでいくでしょう。欧州においては成長戦略である「欧州グリーンディール」のなかで、2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減する目標を掲げています。
今後もハンガリーや中東欧諸国にリチウムイオン電池関連のメーカーやそのサプライヤー企業が進出の計画を立てられるでしょう。これからハンガリーを中心とする中欧諸国への投資を考えておられる企業様の投資プロジェクトの実現に、弊社がささやかながらでも貢献できれば幸いです。