ハンガリー・フォリントとは?

ハンガリーの通貨は「フォリント」(forint)と呼ばれます。「フォリント」という名前の通貨は中世のハンガリーでも、また他のヨーロッパの国でも使われた歴史があります。ハンガリーでは第二次世界大戦後の1945-1946年にハイパーインフレーション(世界で最大のインフレ、月間1016%)が発生し、1927年に通貨として採用された「ペンゴー」(pengő)はその価値を完全に失いました。「ペンゴー」に代わる通貨として1946年8月に導入されたのが「フォリント」です。フォリントの補助単位は「フィレール」(fillér)と言い、1フォリントは100フィレールに分割されます。ただ、インフレ等の影響でフィレールは1999年以降は実際には使われていません。

100兆ペンゴー紙幣(1946年6月)出典:Wikipedia

ハンガリーは2004年にEUに加盟しました。EU加盟の条件として共通通貨ユーロの導入が想定されていますが、導入の期限は定められていません。ハンガリーはEUに加盟した後もユーロを導入せず、現在もフォリントという自国通貨を持っています。ユーロ導入の計画は過去には何度もありましたが、ギリシャ債務危機などがあり、導入に関しては賛否両論があります。現政権はユーロ導入に消極的で、2023年現在は導入の目途も立っていないため、フォリントは今後も使われていくと考えられます。

2014年発行の2023年現在流通しているフォリント紙幣(500、1000、2000、5000、10,000、20,000)出典:Wikipedia

フォリントは通貨の世界では「新興国通貨」(エマージング通貨)とされており、また人口約1000万人という小規模な国であるハンガリーでしか流通していません。よって、外国の出来事の影響を受けやすく、為替レートの変動も激しいです。ユーロの取引が多いため、フォリントの為替レートは対ユーロで示されることが多いです。2023年4月現在のレートは、1ユーロ371フォリントです。


フォリントはなぜ前から安くなる傾向にあるのか?コロナの影響は?

ハンガリー中央銀行は世界的な傾向と同調し2011年から低金利政策を取り始め、2011年に7%あった金利は2016年までに段階的に0.9%まで下がりました。2016年から2020年の間の4年間、金利は一定して0.9%という低水準で保たれました。低金利も原因になり、この間は緩やかなフォリント安(2015年1ユーロ300/310フォリント台、2019年1ユーロ320/330フォリント台)が進んでいました。

財政でも需要喚起の政策(低利子ローン等)が多く、利子は低いままでフォリントの供給は増える一方でした。明言はされなかったものの、フォリント安はまるで国の意図した政策の一部のようでした。

ハンガリー経済の原動力は輸出ですので、フォリント安はプラス効果もあったと推測されます。この時期、ハンガリーの経済成長も高く、多少の物価上昇(2~3%)はありましたが、国民の実質賃金も上昇しました。ただ、2011年1月と2020年1月間でフォリントは対ユーロで23.81%で安くなりました。

2020年3月に新型コロナの危機が始まり、フォリントの為替レートもかなり変動しました。2020年3月のみでフォリントは約8%安くなりました。その後も上下に激しい変動が続き、コロナ後の物価上昇、エネルギー価格上昇、2022年のロシアによるウクライナ侵攻による不安により、2022年10月にフォリントは、1ユーロ430フォリント台まで下落しました。これは2020年1月比でさらに25.45%のフォリント安を意味しています。フォリントの下落は底がないように思われ、2022年フォリントは世界で最もレートが下がった通貨ランキングにも入りました。

フォリントの対ユーロレート2018年-2023年 出展:Portfolio.hu


激しいフォリント安に中央銀行はどう対応したのか?

2021年6月以降為替レートと反比例して、ハンガリーの金利は上がりはじめました。2020年7月の0.6%から2年後の2022年9月に13%まで基本金利が引き上げられました。ただ、2023年4月現在はオーバーナイト金利は18%で、こちらの方が金利(参考金利)として機能しています。現在は世界的にも珍しい高金利です。長い間、ハンガリー中銀の金利引き上げもフォリントの下落を止められませんでした。基本金利は2022年9月に13%で頂点につき、10月にオーバーナイト金利は18%に上がっても、フォリント安は続きました。

ハンガリー中央銀行の金利の推移 出展:Portfolio.hu

フォリントの為替レートが改善しはじめたのは、2022年12月でエネルギー価格が下がり、ヨーロッパのエネルギー危機の収束の兆しが見えた以降です。特にエネルギーに関してハンガリーは輸入に頼っており、エネルギーは外貨で購入する必要があるため、エネルギー価格が高ければ市場には大量のフォリント売りが発生します。これはフォリント安に繋がると考えます。

ヨーロッパの天然ガス価格(EUR/MWh)出典:tradingeconomics.com

2023年にエネルギー供給に関する不安が和らぎ、高金利が功を奏して、2023年1月-4月間はフォリントは対ユーロでは約7%、対ドルでは9%高くなりました。2023年前半は2022年と対照的にフォリント復活の時期だったと言えます。

今後フォリントのレートはどうなるのか。不明点も多いです。中央銀行の金融引き締めでハンガリーで各種ローンの金利が高くなっており、また国にとって国債の負担が重くなっています。高金利は全体的には経済を減速させる効果があります。そのため、政府の方から高金利を引き下げるよう中央銀行へのプレッシャーが強いです。ただ、ハンガリーの中央銀行の立場が難しく、国内のインフレ率が高いまま、世界の主要国が金利引き下げを始めない限り、利下げはフォリントの再び下落するリスクを秘めています。

G20の基本金利 出典:tradingeconomics.com

よって、世界の国々の動向、ハンガリーのインフレ率、2023年にエネルギー価格がどうなるかは重要なポイントになります。結局のところ、ハンガリーは開放経済(国内の市場が狭く、貿易に頼っているという意味で)として他国と上手に共存しなければならないのと同様に、その通貨のフォリントも世界の諸傾向に左右される運命です。


フォリントの変動はハンガリーの日系企業にどのように影響するのか

2011~2020年の間のフォリント安は緩やかで、ある意味では為替の動きは予測可能範囲にありました。このような状況では、ユーロまたは円建てで計画している日系企業にとってメリットもありました。例えば、ハンガリーの給料水準が上がっても、それはフォリント建てで、ユーロ建てでは上昇率はそれほど高くはなかったのです。またハンガリー国内のフォリント建てのサービスに対して、インフレはそれほど影響を及ぼしませんでした。一方、2020年以降のフォリントレートの変動が激しく、予測しにくい状況です。レートがどうなるか分からないのは計画を難しくし、経営のリスクともなります。長期的には安定したレートが望ましいのは日系企業のみならず、ハンガリー企業にとっても同じです。エネルギー価格の変動が落ち着いたことを考えると、フォリントレートの急激な変動は少ないと推測されます。長期的な傾向では、フォリント高よりもフォリント安の可能性のほうが高く、それはハンガリーで活動をする企業にとってメリットとなります。


出典


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