EVバッテリー産業集積地として注目されるハンガリー。ハンガリーは、スズキ(1991年)とオペル(1992年)の進出で自動車産業が盛んになり、中東欧地域(CEE)で最初にeモビリティの概念を導入したことで知られています。現在、ハンガリー政府は、バッテリー製造の可能性を高めるために直接的および間接的なインセンティブを提供し、ヨーロッパで最大のEVバッテリー生産国になりつつあります。また、ハンガリーは、その専門知識、高い生産性、地理的な利便性、競争力のある生産コストを活用し、ヨーロッパで最も魅力的な自動車関連投資先のひとつに成長しています。


自動車産業のEV化によるバッテリー需要の高まり

欧州議会は「Fit for 55」パッケージのひとつとして、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止する法案を可決しました。この結果、グローバル展開している自動車メーカー各社は、EVモデルを次々と発表しました。欧州自動車工業会(ACEA)のデータ(2021年)によると、EU26カ国(マルタを除く)の2021年の乗用車の燃料タイプ別新車登録台数のシェアは、ガソリン車(全体の40.0%)とディーゼル車(19.6%)は合わせると全体の約6割(ブルーゾーン)を占めたものの、登録台数はそれぞれ前年比17.8%減、31.5%減。対照的に、ハイブリッド車と電気自動車(EV)の全体に占める割合は37.6%(グリーンゾーン)と、前年から15ポイント以上上昇しました。ハイブリッド式EV(HEV)は19.6%、バッテリー式EV(BEV)は9.1%、プラグインハイブリッド車(PHEV)は8.9%で、さらにEVバッテリーの需要が高まることが予想されます。また、現在、中国は世界のリチウムイオン電池(LIB)の生産は中国がほぼ独占しており、2020年には77%を占めていたものの、近年、特にヨーロッパで多くの国がLIB生産国になりつつあり、地理的な多様化が進むとみられています。LIB生産量に占めるヨーロッパのシェアは、2020年の6%から2025年に25%に増加し、中国のシェアは65%に低下すると予測されています。

2021年の乗用車の燃料タイプ別新車登録台数シェア(EU26カ国)| 出典:ACEA


ハンガリーに多くのバッテリー製造会社が進出

いち早く欧州市場に目をつけていた韓国企業、LG化学はポーランドに、サムスン、SDI、SK Innovationはハンガリーに生産拠点を設けています。さらに、正極材や電解液といったリチウムイオン電池の部材を供給する韓国メーカーも進出しており、欧州自動車メーカーへの電池供給体制が築かれています。日系企業も、GSユアサがハンガリーにリチウムイオン電池の工場を、東レがリチウムイオン電池の部材であるセパレータフィルムの工場を設立しています。


なぜ、ハンガリーではEV 関連の投資が進んでいるのか

ハンガリー経済を産業別に見ると、自動車産業のシェアが高いことが判ります。スズキ自動車、アウディ、メルセデスベンツ、BYD、BMW(建設中)がハンガリーで工場を設立しています。これらの会社は、ハンガリーは賃金など生産コストが低いこと、主要市場のオーストリア、ドイツ、チェコなどが近いこと、政府の補助金が得られることを理由にハンガリーに進出してきました。アウディ、メルセデスベンツは既にハンガリー工場でEVも製造しており、中国のBYDは電気バスの組立を行っています。また、建設中のBMWデブレツェン工場ではEVのみを製造する計画です。これらの工場のニーズに応えるために、EVやバッテリー関連のサプライヤーが多数進出しています。ハンガリー政府には「再工業化計画」があり、ハンガリー経済における工業の割合を増やすことを目指しています。工業の分野でも特にEV関係の投資は政府のサポートや補助金を得やすくなっています。


ハンガリーにおける大規模なバッテリー投資の紹介

ハンガリーでは複数の大規模なバッテリー工場の投資が発表されています。どの工場もハンガリー政府のサポートと補助金(Samsung SDIは約130億円)を受けています。

  • CATL(中国)
    中国の大手バッテリーメーカーのCATLは、ハンガリーのデブレツェン市に大規模なバッテリー工場を建設する予定です。同社による投資金額は約1兆1538億円で、ハンガリー史上最大のグリーンフィールド投資です。工場ではEV用のバッテリーが製造され、生産能力は年間100 GWhとなる計画です。納入先はハンガリーに工場を持つメルセデスベンツとBMWと発表されています。工場の建設は2022年に始まりました。
  • SK Innovation(韓国)
    SK InnovationはハンガリーのコマーロムにEVバッテリー工場2棟を設立しており、2020年からEVおよびハイブリッド用のバッテリーを製造しています。これらの工場の年間生産能力は7.5 GWhです。2021年にハンガリーにおける新たな投資を発表し、イヴァンチャ市に年間生産能力30 GWhの工場を新設しました。投資金額は約2,724億円に上ると言われています。新工場は2023年中に生産を開始する計画です。
    ダイムラー、ヒュンダイ、KIA、フォルクスワーゲンに納入する予定です。
  • Samsung SDI(韓国)
    Samsung SDIはハンガリー工場で2016年以来、リチウムイオン電池を製造しています。同社は元々あったハンガリーのテレビ関連工場をバッテリー工場に改造しました。約1,560億円の投資で設備を増設し、工場は自動車産業のニーズに合わせて拡大し続けています。同工場の生産能力は30 GWhで、ハンガリーでさらに新工場の建設も検討しています。


ハンガリーに進出した日系企業の紹介

  • 株式会社 GSユアサ
    株式会社 GSユアサ(社長:村尾 修、本社:京都市南区)はハンガリーのミシュコルツ市に100%の子会社を設立。2017年10月に設立されたGS Yuasa Hungary Ltd.(ジーエス・ユアサ ハンガリー)は、自動車用12Vリチウムイオンバッテリーの新工場を2019年10月に稼働させ、欧州自動車メーカーへの出荷を開始しました。欧州において需要拡大が見込まれている自動車用12Vリチウムイオンバッテリーを新工場で製造するため、最新の自動化された生産ラインを導入し、日本で製造したリチウムイオンセルを組み立て、バッテリーを製造します。新工場の初年度の年間生産能力は50万個でした。
  • 東レ株式会社
    東レ株式会社(代表取締役社長:日覺 昭廣、本社:東京都中央区。)は、ハンガリーのニェルゲシュウイファル市にリチウムイオン二次電池(LiB)用バッテリーセパレータフィルム(BSF)を生産する工場を作ることを発表。2018年4月に設立した「東レハンガリー」(英語名:「Toray Industries Hungary Kft.、略称:THU」)に設備を導入しました。東レグループ全体のBSF生産能力は年産約20%増強となりました。


出典


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