ハンガリーの最低賃金引き上げ、成長鈍化で2025年は当初想定より低めか

ハンガリーの2025年の最低賃金と資格保有者向け最低賃金に関する合意が成立した。民間企業・政府常設協議会(VKF)は、2025年から2027年にかけての最低賃金引き上げに関する3年間の協定を締結し、今後の具体的な金額が明確に示された。この合意により、ハンガリーの労働者にとって賃金水準が段階的に向上することが期待されている。

2025年1月1日から最低賃金は9%で引き上げられ、月額290,800フォリント(額面)となる。さらに、2026年1月1日には13%の引き上げが行われ、最低賃金は月額328,600フォリント(額面)になる見込みである。最終的に2027年1月1日には14%のさらなる引き上げが予定されており、この時点で最低賃金は月額374,600フォリント(額面)に達する計画だ。

また、資格保有者(※高校卒業や専門知識を求めている業務を行っている労働者)向け最低賃金については、2025年に7%の引き上げが実施されることが決定された。2026年以降の引き上げ率に関する具体的な見通しは示されていおらず、毎年双方が協議を通じ決定するとした。資格保有者向け最低賃金は最低賃金と同様の推移をたどる可能性が高いと考えられている。

最低賃金の引き上げをめぐり、雇用主側は2025年に8%、2026年に10%、2027年に12%の引き上げを提案していた一方、労働組合側は10%、12%、14%の引き上げを求めていた。今回の合意では、2025年に関しては双方が妥協点を見いだしたものの、2026年以降については労働組合の主張が受け入れられた形となり、労働者側に有利な結果となったと言える。


ハンガリーの最低賃金推移(2016年~2025年

年度最低賃金(HUF)資格保有者向け最低賃金(HUF)最低賃金上昇(%)資格保有者向け最低賃金上昇率
 (%)
2025290 800348 80097
2024266 800326 0001510
2023232 000296 4001614
2022200 000260 00019.4718.72
2021167 400219 0003.983.99
2020161 000210 60088
2019149 000195 00088
2018138 000180 5008.212.1
2017127 500161 00014.924.8
2016111 000129 0005.75.7


最低賃金の長期的な目標は2027年までに全国の平均賃金の50%に達することである。これはEU指令に基づき、ハンガリー国内法にも反映されている。政府もまたこの目標を支持しているが、企業の経済力が限られていることから、その実現には課題が多い。

現在、ハンガリーでは約21万4000人が最低賃金で働いており、資格保有者向け最低賃金は約32万5000人が受け取っている。政府の予測によれば、2027年には最低賃金で働く人の数が34万1000人を超え、資格保有者向け最低賃金で働く人は60万人以上に達する見込みである。このような最低賃金の引き上げは、賃金全体の引上げ圧力を生む可能性がある。一方、これまで最低賃金より多く受け取っていた労働者の賃金が「最低賃金」に近い水準にとどまることで生じる心理的影響も懸念されている。


労働市場の動向と課題

現在のハンガリーの労働市場は安定しているとされるが、やや逼迫している状況も見られる。未充足の求人件数は緩やかに増加しており、失業率は4.5%と比較的低い水準にある。ただし、一部の企業では労働力を維持するために必要以上の人員を雇用しているとの指摘もある。

2024年のランドスタッド社の調査によると、ハンガリー人の75%が仕事を「重要」または「非常に重要」と考えているが、現在の雇用主に忠誠心を感じているのは55%にとどまる。雇用条件で最も重視されるのは賃金(95%)であり、次いで雇用の安定性(90%)、ワークライフバランス、有給休暇の多さが挙げられている。また、柔軟な労働時間(83%)や健康保険などの福利厚生(82%)も重要視されている。

ワークライフバランス


リモートワークや労働時間のフレックスタイム制に対しても関心が高い。現職が十分な柔軟性を提供していると感じたのは回答者の43%にのみでる。在宅勤務の可能性が制限されていると感じた人も多いという。理想的な働き方として、週2~3日のリモートワークを望む人が多いが、完全なリモート勤務を実現しているのはわずか5%にすぎない。特にZ世代では、柔軟な働き方への期待が強く、25%が週1日だけの出社を希望している。

国際比較では、ハンガリーの労働者は賃金に対する満足度が56%であり、EU平均の68%を大きく下回っている。福利厚生に対する満足度も性別で差があり、男性の66%が医療サービスに満足しているのに対し、女性ではそれは52%にとどまる。このような格差は、賃金引上げへの圧力をさらに高める要因となる可能性がある。

政府は最低賃金の引き上げを推進しつつも、企業への支援策としてかつて行った税制優遇(社会保険料の減免など)は、財政状況の逼迫から当面期待できない。経済成長が鈍化する中で、今後の労働市場と賃金政策の行方が注目されている。


出典


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